緊急時に使えない「緊急停止ボタン」
2008年1月27日 日曜日

放送作家の小山薫堂さんは、街で何か気になるものを見つけると、「自分ならこうするのになあ」と、依頼されてもいないのに頭の中で企画を練って鍛えているという。
その話を読んだ頃に、おもしろいものを見つけた。地下鉄大江戸線・東中野駅のプラットフォーム。
この緊急停止ボタンをデザインした人の考えたことはこういうことだろう。
「そうだなあ、大切なものだし、やっぱり詳しく説明した方がいいだろうなあ。隣にポスターを貼ってばっちり解説して、ボタンの上にも緊急時に読めるように短い説明を…。いたずらで押されると運行に支障が出るから、ボタンはあまり目立たないほうがいいよな」
この機械の最大の目的は「緊急時に人命を守ること」。 いま、あなたの脚がドアに挟まっている。電車が動き始めちゃったよ!だれか!だれか、止めてくれぇ!!!!というシーンで、1秒でも早くボタンを見つけ押しても らいたい。そんなときに説明書きの方が目立つのは、文字通り命取りになる。そんな時に、念のため説明を読むやつはアホだ。
一目見て、このデザインは明らかに「緊急時以外」の時の教育を優先していると思った。
平常時にじっくり読んで、写真まで撮るようなひま人は私くらいにものだ。なぜかというと、この機械には緊急時以外に誰も興味がないからである。 説明書を読まないと使えない製品は悪いデザインだが、要はボタンを見つけて押せば良いだけのことなのである。解説などいらぬ。
そこでお節介にもこういうふうにデザインをいじった。デザインの目的はシンプル。「ボタンを出来るだけ早く見つけて押せること」

- ボタンの位置が分かるように、周りを赤で囲み「おす」と書く。これで、数十メートル先からでも、ボタンはあそこだとわかる。子供用にひらがな。しかも赤は危険の色なので、酔っぱらいもプッシュを躊躇するオーラを漂わせる。4秒の節約。
- オリジナル版では、邪魔ものが多く、ボタンがどこにあるのか一目でわからない。見たときに眼が追う目立つ順番は、ポスター、ボタンの上の説明プレート、赤いランプ、そして・・・ん?ボタンはどこだ?あぁここか!といった感じだろう。そこでポスターは白黒にし、白いプレートは削除、赤いランプは紛らわしいのでボタンより遠くに移動。ボタンの近くにある視覚的に邪魔な要素も離す。2秒の節約。
- 「列車緊急停止ボタン」という名前が直感的でないし、漢字が多くて読むスピードが落ちる。「列車」「緊急」「停止」のどれをとっても、一般人が日常生活で使わない言葉だ。そしてなにより、このボタンの唯一の目的は電車を止めること。そこで「電車が止まるボタン」と書く。 日本語の重要度が高いので、英語は下の方にまとめる。1秒の節約。
いやあよかったですね。 あなたの脚がちぎれる6秒前に電車が止まりましたよ。














阿部譲之 あべよしゆき。木工芸とプロダクトデザインを経て、NYで石岡瑛子に師事。東京を拠点に活動するデザイナー、ジャーナリスト