アーカイブ 2008年1月

1人先はデビッド・リンチ、目の前にサラ・ミシェル・ゲラー

2008年1月10日 木曜日

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隣の教授がアイマスクの向こうで眠りに落ち、さてどうしようかとスクリーンに眼をやると、映画に知り合いが突然出てきて驚いた。

ハリウッドの演技派ベテラン女優、グレイス・ザブリスキー

『ツインピークス』で主人公ローラ・パーマーの母親役、と言うと思い出す人もいるだろう。そう、あの気が狂ったオバさんをやった人だ。

これは、私が浅草のボロ屋を仕事場にしていた頃のことだが、そんなコワモテのおばさまを、東京ツアーに連れて行った。ツアーとは言っても、およそ観光とはかけ離れたマニアックなものだが。

ことの始まりは、ホラー映画「呪怨」の、ハリウッド・リメーク版の撮影が東京であったことだ。出演者の1人のグレイスは、女優業以外にアーティストとして木工芸に夢中で、宿泊先のコンシェルジェに、英語を話せる伝統木工の専門家を探させた。

当時、英語のホームページを持っている東京の木工経験者が私くらいのものだったこともあろうが、昔通ったカリフォルニアの家具学校の名前がプロフィールに書いてあったのが彼女の眼にとまって、メールが届いた。アメリカの工芸界では名前の知られた巨匠が教えている学校で、彼女もその評判を知っていたというのだ。その巨匠の爺さんの名前を知っているということは、かなりのマニアだという証拠。電話で話がはずんだ。

ハリウッド女優が東京の伝統木工を案内して欲しいと頼んできたら、そりゃ、引き受ける以外の選択肢があったものではない。数日後に滞在先に向かった。

ロビーで彼女と話していると、撮影がオフの日だったようで、次々に撮影スタッフやら俳優達が「おはよう」と声をかけて行く。その中の小柄な女性が「地下鉄の駅は近いの?」と聞くので、僕らもいま向かうから一緒に行きましょうよと伝えた。彼女にぴったりくっついている屈強な男はボーイフレンドだろうか。ずいぶん無口な男だ。

その若い女性のグループと外苑前駅で別れてすぐ、グレイスが「彼女が誰だか知ってるか?」と聞く。なんとあの小娘は、サラ・ミシェル・ゲラーだというではないか。アメリカで若者に熱狂的な人気のある女優だ。男はアメリカから連れてきたボディーガードだったのだ。日本では誰も気付かないようで、そのハリウッドの超有名女優はサングラスもかけず普通に地下鉄に乗って銀座へ買い物に出かけて行った。

グレイスと車中で話をしていて、彼女の親友のデビッド・リンチの話題になった。作品にも常連で出演していると聞くと、ちょっと嬉しくなってしまう。知り合いの知り合いの知り合いという具合で繋げていくと、6人だったか10人だったか先にはアメリカ大統領がいると言う話があるが、その日から、私の1人先はデビッド・リンチというわけだ。

ただ、その1人という壁は、薄いようで、果てしなく分厚い。それは、知り合いというだけはどうにもならない「実力」という見えない絶壁だ。

初めて自分のオフィスを構えたばかりのあの頃、隣に座るハリウッド女優と2人で、終点浅草に到着するアナウンスを聞きながら、そんなことを考えていた。